先日「日本の伝統的酒造り」がユネスコの無形文化遺産に登録されることが決定しました。日本酒などのお酒、みりん、醤油、味噌といった日本伝統の発酵食品には麹が用いられますが、麹菌は世界の中でも日本にしか存在しません。日本独特の気候風土から生まれた麹を用いて大切に育まれてきた発酵技術は、まさに文化財だと言えるでしょう。
そんな麹を使った食生活について発信し、「麹ダイエットコーチ」として活躍する、のぞみさん。麹に関する講座も開講し、多くの人に“麹の良さ”を伝えています。麹のダイエット効果やおすすめの活用法について、お話をうかがいました。

のぞみ
公認心理士、臨床心理士、麹ダイエットコーチ。
学生時代から産後に至るまで、ダイエットに悩み続ける25年間を経験。腸活・麹との出合いを機にダイエットを卒業できた経験から、「麹料理」「ファスティング」「おうち筋トレ」の3本柱を軸にしたダイエット法を構築。Instagramで麹を使ったレシピ、自然と痩せる麹ライフについて発信中。著書に『麹で腹ペタダイエット』(KADOKAWA)がある。
“痩せたいのに痩せられない” 万年ダイエッターだった過去

―のぞみさんは、以前はご自身もダイエットに悩まれていたとか?
いわゆる万年ダイエッターで、いろんなダイエットに失敗してきました。+16kgの産後太りも経験しています。30代後半になり、もう子供たちも育って「産後」なんて言えないのに、思ったように痩せられないことに、ずっと囚われていました。40代を目前に、風邪をひきやすくなったり、血糖値が高くなったりと、不調も増えました。「このまま年を重ねるだけではいけないな」「痩せたいのに痩せられないと思いながら、一生過ごすのは嫌だな」と思い立ったんです。それでたどり着いたのは「腸活」でした。
というのも、単に痩せるだけでなく、心身ともに健康になりたいという思いもあったからです。
私は普段は心理士として働いており、主に子どもたちの心のサポートをしていますが、女子たちの過度な「やせ願望」などが気になっていたんです。心のバランスを崩してしまう子の生活面について聞くと、食の乱れや偏りが目立つことにも気づきました。
そんな中、「腸を整えると心も整うのではないか」という考え方に行き着き、まずは自分の体で実験してみようと、ファスティングに挑戦したんです。
―ファスティングですか。“断食ダイエット”としてよく耳にします。
断食と聞くと、ネガティブなイメージも抱くかたもいるかもしれませんが、ファスティングは「ただ食べないだけ」ではなくて。目的は、食習慣のリセットや腸内環境を再構築する機会を作ることなんですね。実際に挑戦してみると、本当に気持ちよく、ひもじさとは全く無縁で、純粋に体がすっきりするという体験をしました。このファスティングを機に、腸を整える食事に目を向け、「麹」に出会ったんです。
―腸活や麹を取り入れてから、体の変化はありましたか?
麹を食生活に取り入れ、腸活を続けていくと、4カ月で8kgくらい落ちたんです。ウエストも9cm減! 体や肌の調子もよくなって、周りからも「何をしたの?」と聞かれるようになりました。
実は私、もともとジムに通って筋トレもしていたんです。でも、なかなか落ちてほしいところの脂肪が落ちなかった……。ところが、腸活を始めたら、その脂肪がストンと落ちました。単に体重が落ちただけでなく、腹筋の線が見えたり、二の腕が引き締まったりと、今までの筋トレの成果が目に見えるようになったんです。
この経験から、体を変えるためには「食事を変える」が基本ですが、スタイルを良くするには運動、特に筋トレが必須なんだなと実感しました。なので、自著『麹で腹ペタダイエット』にも、ちょっとした筋トレのやり方も加えています。効果が目に見えてくるようになってから、さらに筋トレも楽しく取り組めるようになりました。
―食生活を変えるとうれしい変化がたくさんあるんですね!
スタイルが良くなったことに加え、「肌トラブルの改善」もうれしい変化でした。高校生の頃から赤ニキビや吹き出物が出やすく、大人になってからも悩んでいたんです。鏡を見るたびに憂鬱だったのですが、そうした肌のトラブルもめったに出なくなりました。
今振り返ると、昔は、甘いものをすごく食べていたので、砂糖の摂取量が多かったせいではないかと思います。腸活を始めてから、普段の食事で自分に必要な栄養バランスがわかり、満たされているせいか、自然と甘いものを欲しなくなりました。今は、家では白砂糖は使わなくなり、甘酒や本みりんを甘味として料理に活用しています。
「麹」がダイエットに役立つ理由
―麹がダイエットに効果的なのはなぜでしょうか?
ご存じのように、麹は、味噌、醤油、お酒、みりんなど日本古来の食品や調味料の原料に用いられています。その役割は、食品を発酵させること。その発酵の過程で、食材の持つうまみが引き出されたり、体によい成分が作られたりするんです。特に、麹の作り出すオリゴ糖は腸内の善玉菌のエサになり、腸内環境を整える効果があります。腸が整うと、代謝や脂肪の燃焼が促され、自然と健康的な体型を目指すことができるんですよ。
便通も改善します。便によるお腹のぽっこりも解消されますし、ため込まずスムーズに排出ができる体になっていきます。この便秘改善効果も、ダイエットに通じる部分がありますね。
―腸を元気にすることで、健康的な体を目指せるんですね。
はい。しかも、麹を取り入れると、料理がほんとうにおいしくなるんです!
今では「体にいいから麹を使う」ではなく、「おいしいから使う」に変わりました。
塩麹、醤油麹、甘酒、味噌などの調味料は、麹があれば自宅で作れるんですよ。調味料から自分で作ることで、「自分で自分の体を作っている感覚」と言いますか、「食が自分の体を作る」というダイエットにおいても重要な意識が養われると思います。

腸を整えると心も整う?
―腸を整えることでダイエットや肌以外に効果はありましたか?
メンタル面での変化も実感できました。 幸せホルモンである「セロトニン」が腸で作られているということは、一般にもよく言われています。セロトニンは情緒的な安定につながるとされるので、腸活で心にもいい影響があるのかもしれません。ただ、私の経験では「自己効力感」が上がったなということを実感しました。
―自己効力感ですか! 具体的に教えてください。
これまでは、自分の体調だったり体型だったり、ダイエットの悩みなどが、外側の事象に振り回されている感覚でした。例えば「産後太り」と言いましたが、出産の影響、仕事や育児の忙しさ、ストレスなどがあって太ってしまった……という感覚です。
それが自分で食事を工夫し、腸内環境を整えていくと、体の調子が良くなるんですね。このサイクルになると、先ほど申し上げた「自分で自分を作っている」感覚になれるんです。いい意味で、すべては自分のせいというか、自分のことは自分で変えられるという感覚。それが自己効力感ですね。
―自分に自信がつきそうですね。
私だけでなく、麹ダイエット講座の受講生さんを見ていても、「麹調味料を作れるようになって、毎日の料理が楽しくなった」「麹を作れるようになった」といった、ほんの些細な日常の変化から「私って案外、やるじゃん!」といった自己効力感を満たせるようになっているかたが多いな、という印象です。

おすすめの塩麹活用法
―ぜひ、おすすめの麹の使い方を教えてください。
麹にはいろいろな活用法がありますが、塩を塩麹に置き換えることから始めてみてはいかがでしょうか。私のInstagramでも、塩麹はもちろん、そのほかさまざまな麹を使った簡単なレシピを紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。


―塩麹を使って、一番よく作っていらっしゃる定番レシピはありますか?
「塩麹ささみのサラダチキン」です。とても手軽に作れるので、我が家では作り置きをしておき、なくなったらすぐに仕込んでいますが、あっという間になくなります。作り方はとっても簡単で、仕込みは朝の5分で十分! 「あと一品欲しい」というときや、サラダに何か加えたいとき、小腹が空いたときのおやつにもできます。ささみ一本で約10gのたんぱく質が取れますので、筋トレや運動、ダイエットをしているかたにもおすすめですよ。

「塩麹ささみ」の作り方
①ささみをポリ袋に入れ、ささみの重さの10%の塩麹を入れる
②塩麹をまぶすようになじませたら、袋を閉め、冷蔵庫で半日~1日おいて漬け込む。
③半日~1日寝かせたら、ささみを弱火でじっくり蒸す
④肉の周りが白くなってきたら、ひっくり返して余熱でじんわりと温める
―料理が苦手でも挑戦できそうな手軽さですね!
私はすっかり麹にハマって、今では自分で手作りしますが、まずは身近で手に入る麹を食生活に取り入れてみてください。そのおいしさ、楽しさ、手軽さを体感していただくのが一番です。
理想の体になるには、全体的な食生活の見直しや筋トレなどの運動も必要不可欠ですが、手軽に始められる麹や腸活が一つのきっかけになるかなと思っていて。便通が良くなったり、お腹周りが軽くなったり、“自分の体を自分で変えられる感覚”ができてくると「体をもっと綺麗にしたい!」と自然と動きたくなると思うんです。
ぜひきっかけの一つとして、麹に興味を持っていただけるとうれしいです。

